「かくれんぼ」(hide-and-seek) に12年間だけ存在した、日本の狂ったローカルルール

あなたは子どもの頃「かくれんぼ」で遊んだことがあるだろうか。

▲「もーいいかい?」「まーだだよ」

その歴史は古く、日本では平安時代以前から遊ばれていたそうだ。

世界的にも似たルールの遊び(英語で「hide-and-seek」)が多種多様に存在しており「隠れて、見つける」という行為は国を問わず、子どもの遊びとして愛されている。

しかし日本では、到底かくれんぼとは思えない独自のローカルルールが敷かれていた時期がある。かくれんぼを研究する学者達にこのことを聞けば、必ずこう返ってくる。

「あの時期のかくれんぼは、狂っていた」

――すべては、とある曲の歌詞から始まった。

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お尻を出した子 一等賞

それは、1984年にアニメ「まんが日本昔ばなし」(毎日放送)のエンディングテーマに採用された曲『にんげんっていいな』である。

熊の子見ていた かくれんぼ
お尻を出した子 一等賞

この曲が大人気アニメのエンディングでお茶の間に流れた瞬間、常識は書き換わってしまった。かくれんぼとは“お尻を出した子が勝者”のゲームとなったのだ。

小学校で「かくれんぼしよう!」などと声が上がると、そこが教室であろうと運動場であろうと、お尻を出さなければいけなくなった。

子どもの社会では、遊びを通して群れの位置が決まる。遊びで上位になることは群れでの勝利を意味し、逆は下位――スクールカーストでの奴隷生活を強いられることとなる。

かといって、遊びに参加しないという選択肢は負けと同じ。つまり、かくれんぼが提案された時点で、その場にいる子どもたち(基本的には男子のみである)は全員、お尻を出さなくてはいけない。

また、フライングは死を意味する。かくれんぼというルールにおいてのみ、お尻を出すことは競技だ。しかしそれ以外で突然お尻を出したら、ただのバカである。

フライングをしようものなら、義務教育が終わるまで『おしりマン』というあだ名が確定する。こうして、お尻を出すも地獄、出さないも地獄という状況が完成する。

もちろん、これ程のリスクを背負って「かくれんぼしよう!」と言い出す子どもは、すでにお尻を出す準備が整っている。中には卑怯な手――イカサマを行う者も少なくない。

最も多いイカサマは、パンツとズボンを予めクリップを使い、利き手側で止めておき、それを利き手の親指をパンツの内側へ、他の指はズボンの外側を覆う。こうして、クリップを見えなくする。

かくれんぼが始まったら、即座にお尻を出す。お尻を出したら、親指に力を入れてクリップを外しながら利き手を握る。こうすればスムーズにお尻を出せる上に、クリップの存在はバレない。

いわゆる「ぶっこ抜き」というイカサマである。他にもポケットに石などを入れてズボンを重くしておく「河拾い」、最初からパンツを履いていない「ノーパン」などが日常的に行われていた。

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ローカルルールの終焉

かくれんぼの概念は完全に変わってしまったが、1996年にこのローカルルールは終わりを告げる。

この頃は、一部の小学校などで徒競走の順位を付けないなど、平等教育とゆとり教育に現場が揺れていた時期である。NHKで組まれた特集は、多くの反響を呼んだ。

東京かくれんぼ研究会理事長で日本人とスペイン人のハーフ、佐久間チリペッパー教授(当時52歳)は、地方新聞の一面に以下の文章を掲載した。

「『にんげんっていいな』において一等賞はひとりだけとも、最も早く出した者が勝利とも定義されていない。よって、お尻を出した子どもは全員一等賞である。かくれんぼとは、お尻を出す行為そのものであり、すべてのお尻を出した子どもは平等に愛されなければならない」

この文章に、かくれんぼへ疑問を持っていた多くの学者、著名人たちが同調。「お尻を出す行為をかくれんぼとは呼べないのでは」「そもそも、何故尻を出すのか」などの声が上がった。

さらに、全員が一等賞となるかくれんぼには遊戯の価値がなくなってしまった。こうして日本のローカルルール“お尻を出した子一等賞”は終わりを迎え、現在の愛されるかくれんぼへと回帰したのだ。

 

最近では、大人たちが立派なスポーツとして、かくれんぼを楽しむ事例も出てきた。

イタリア北西部のコンソンノ村で行われた「かくれんぼ世界選手権」では、世界各国80チームの強豪たちが集まり、本気のかくれんぼでしのぎを削りあった。

もちろん、お尻を出したりはしない。正真正銘のかくれんぼである。

 

1984年から12年間だけ存在した、泡沫のローカルルール。「かくれんぼしよう!」という声が聞こえた瞬間、ズボンに手をかける人を見かけたら――それは歴戦の『おしりマン』かもしれない。

記者:ふーらい(ふーらいの思うこと)

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